古寺 哲幸さん 写真
Research NEWS

善玉コレステロール(HDL)が産生される過程を可視化することに世界で初めて成功

ナノ生命科学研究所(WPI-NanoLSI), 教授
古寺 哲幸KODERA, Noriyuki

【本研究成果のポイント】

?HDL(※1)(いわゆる善玉コレステロール)は私たちの身体にとって重要ですが、どのように産生されるのかは不明でした。
?高速原子間力顕微鏡(高速 AFM) (※2)を用いて新生 HDL(※3)産生過程を世界で初めて可視化した結果、これまで見たことのない新しいメカニズムであることがわかりました。 

 

【概要】

 世界トップレベル研究拠点プログラム(WPI)の 2 拠点、①京都大学アイセムス(高等研究院 物質―細胞統合システム拠点)の植田和光特定拠点教授、小段篤史特定准教授らの研究グループと、②金沢大学ナノ生命科学研究所の古寺哲幸教授のグループは、高速原子間力顕微鏡(高速 AFM)を用いて、ABCA1(※4) が新生 HDL を形成する過程を可視化することに世界で初めて成功しました。

 新生 HDL は、数百分子のコレステロールとリン脂質の周りに 2~4 分子のアポリポタンパク質 A-I(アポ A-I)(※5)が巻き付いた構造をした円盤状粒子で、細胞膜上のタンパク質 ABCA1 の働きによって形成されます。次に新生 HDLは血中で別の酵素の働きで球状の粒子となり、肝臓へ運ばれます。ところが、ATPのエネルギーを用いてコレステロールとリン脂質を輸送する ABCA1 が、細胞表面でどのようなメカニズムで新生 HDL を形成するのかは不明でした。

 今回、研究グループは、ABCA1 が輸送した数百分子のコレステロールとリン脂質を自身の細胞外ドメインに一時的に蓄積し、それらを血中のアポ A-I に一気に載せることによって新生 HDL を形成することを、高速 AFM を用いた可視化によって明らかにしました。本研究結果は、心血管疾患や脂質異常症の新規治療法の開発に役立つと期待されます。

 本結果は、2025 年 8 月 20 日に、『NanoLetters』 誌のオンライン版に発表されました。

 

 

図:(左)ATPと反応後アポA-Iとの反応で、新生HDLが産生されました。(右)ABAC1の細胞外ドメインから新生HDLが産生される瞬間。

 

 

図:本研究で明らかになった ABCA1 による新生 HDL 産生機構

 

 

【用語解説】

※1:HDL(高比重リポ蛋白質)
 コレステロール、リン脂質、アポA-Iからなる血中の複合体球形粒子。全身の細胞で過剰となったコレステロールを肝臓へ運ぶ。善玉コレステロールとも呼ばれる。

※2:高速原子間力顕微鏡(高速AFM)
 試料表面の微細な凹凸や物性をナノメートルレベルで観察できる顕微鏡の一種。探針と試料の間に働く原子間力を検出し、その情報を基に表面の形状や特性を画像化する。金沢大学ナノ生命科学研究所の安藤敏夫特任教授によって開発された。

※3:新生HDL
 数百分子のコレステロールとリン脂質の周りに2~4分子のアポA-Iが巻き付いた円盤状粒子で、ABCA1の働きによって細胞膜上で形成され、次に血中で別の酵素の働きで球状の粒子となり、肝臓へ運ばれる。

※4:ABCA1
 ABC タンパク質ファミリーの一つ。コレステロールとリン脂質を ATP 加水分解に伴って輸送するトランスポーター。2261 アミノ酸からなる大きな膜タンパク質。

※5:アポリポタンパク質A-I (アポA-I)
 HDLの主要構成成分。243アミノ酸からなるひも状のタンパク質。

 

 

プレスリリース

ジャーナル名:NanoLetters

研究者情報:古寺 哲幸

 

 

FacebookPAGE TOP